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こっそリク企画でなゆたさんから頂いたリクを書きました
本文は続きからどうぞー↓


***
拍手や返信不要コメありがとうございます!
嬉しい言葉で褒め殺して頂けて、本気で「我が生涯に一片の悔い無し」状態です



-----

それは多分オレンジ色で星型の花


カシャンッという音が、開いた扉で繋がる隣室から響き
ガラスと物がぶつかる音ってのはどうしてこうも
不安定に聞こえるんだろうとおれは思った。

「あっ!」や「うわ!?」という短い悲鳴が不定期に聞こえてくる。
数分前から開いている本は残念なことに
未だ一ページも読み進められてはいなかった。
「なあソラぁ、本当に手伝わなくても大丈夫かー?」
隣室で悪戦苦闘しているだろうソラにそう声を掛けると
「だ、大丈夫だよ! ……多分」
というなんとも不安になる返事が帰ってきた。
続いて、今度はガタタッと何か引っ掛けたような音が響き、
おれは思わずため息とともに額に手を当てた。

おれが今、気もそぞろに待機を強いられているのも
ソラがあっちで慣れない行動に四苦八苦しているのも
同じく十数分前の会話がきっかけだった。


十数分前、何気ない会話の最中でソラがふと声を上げた。
「あ、そうだ、これグレミオが焼いてくれたんだった」
渡すの忘れてた、と付け加えたソラがおれに手渡した物は
オレンジ色のリボンで可愛らしくラッピングされた小さな紙袋だった。
中を覗いて見るとそこには綺麗に焼き色のついたクッキーが沢山入っていて
ウサギや花の形に抜かれたそれは、"男が作った物"だと言っても
おそらく信じて貰えないだろう可愛らしさだった。

「相変わらず器用だなー、グレミオさん!
 ソラ、帰ったらおれの代わりにお礼言っといてくれな」
「うん、わかった」
「なあこれ折角だし今食べちゃおうか。おれ、お茶淹れてくるからさ」
袋からふわりと漂った甘い香りに食欲をそそられ、おれは立ち上がった
……が、正面から伸びてきたソラの手に腕を捕まれ立ち止まった。
「ソラ?」
「あ、あのさ……」
おれが名前を呼ぶとソラは何故か淡く頬を染め、俯きがちに視線を逸らした
そして数十秒なにか言いたげに口籠った後、意を決するように勢い良く顔を上げる。

「……僕、お茶を淹れた事が無いんだ」
「はい?」
唐突なその言葉におれはポカンと口を開けた。
「その、いつもグレミオ達がやってくれるから、自分でした事無くて……」
相当恥ずかしいのか、ソラの白い頬は真っ赤になっている。
「あー、まあ、お前根っからのお坊ちゃんだしなぁ。
 でも淹れてくれる人が居るなら別に自分で出来なくてもいいんじゃないか?」
「駄目だよ! こういう基本的な事が出来ないせいで
 父さん達に恥をかかせる事になるかもしれない。そんなのは嫌なんだ」
自分自身を『情けない』と叱咤するようにソラは声を荒げる
黒い瞳はまっすぐにこっちを見つめていた。

「そっか……。じゃあまず第一歩目は"おれで練習"だな!」
「えっ?」
おれが笑いながらそう言うと今度はソラがきょとんと目を見開いた。
「簡単に淹れ方教えてやるし、道具も貸してやるからさ、そこでやってみろよ」
台所でもある隣室を指差しながら言うと、ソラの表情はパッと明るくなった。
「ありがとう、テッド……!」
「そうそうもっと感謝したまえ!」
そうやって茶化すと、ソラは気が抜けたように子供らしい表情で笑った。

…………と、これがきっかけだ。
あの後本当に"簡単に"だが、お茶の淹れ方を教えてやった。
ソラは張り切って『分かった、やってみるよ!』と言い、
隣で手伝いながら細かい所を教えようと思っていたおれを振りきって隣室へ向かった。
そして今、慌てた声や物が倒れるような音が響いている、正直凄く不安だった。

◇◆◇

「で、できたよ、テッド!」
さらに数分後、そう言ってソラは茶器の乗ったトレイを持ってきた
元々運動神経がいいだけあってトレイを持つ手つきは安定している。
手に火傷を負っていたり、茶器にヒビが入っている事も無さそうで少し安心した。
「おつかれー、どうだソラ、上手くいったか?」
「う、えっと、あー……、その、や、やれるだけやったよ!」
どうやら上手くいかなかったらしい。

カップの中の液体は"少し濃いか?"と思う程度でそこまでおかしくは見えない
だが一口啜ってみた瞬間、その予想は間違いだった、と悟った。
渋い、ぬるい、濃い、ざらつく、そして渋い、ほんと渋い。
口の中に残る渋みを消す為に慌ててクッキーを口内へ放り込んだ
フワンと漂うバニラの香りと優しい甘さに、味覚が幾分か救われた。
「……おまえこれどんだけ茶葉入れたんだよ」
口に残るクッキーを飲み込んでから恐る恐るそう聞いてみると
「このくらい。 ごめん、沢山入れたほうが美味しいかと思って……」
と、そう返しながらソラがティーポットの蓋開けた。
中を覗いてみるとそこにはジャスミンの茶葉が溢れんばかりにモリモリに詰まっていた。

おれの記憶が確かなら、家にあった茶葉は小さな玉状に丸められた物の筈だ
たしかにあれは多めに入れてしまいそうな気もする、が、それでもこれはやりすぎだ。
あの茶葉はグレミオさんが分けてくれたマクドール家御用達の品だから
それなりに高級品だったんだろうなぁ、と今更だが少し後悔した。
「なんかガタゴト鳴ってたけど、物が壊れたりはしなかったか?」
おれは何とも言えない心境を吐き出すように一度ため息を付いてからそう聞いた。
「うん、それは大丈夫。ぶつけちゃったりはしたけど
 壊れはしなかったし、落ちてきたのは全部受け止めたから」
「ハハ、流石の反射神経だな」
倒れる椅子や落ちてくるカップを次々受け止めるソラの姿が
わりと簡単に想像できて、ちょっと面白かった。

「だーけーどー、さすがにこれは
 『始めてにしては上出来』とは言ってやれないなー」
「うん、僕もそう思う、ごめんねテッド」
いつものように軽口をたたくと、思っていたよりも悄然とした返事が帰ってきた。
「ま、まあでも、飲めないことはないさ。
 ……そういえばさ! ジャスミンの花言葉って知ってるか?」
慌ててフォローを入れ、力尽くで話題を変える。
「いや、知らない」
「愛らしさ、温和、清純、愛嬌、私はあなたのもの」
一本二本と指を立てながら単語を挙げていく。
「へえ、そうなんだ。でも確かにジャスミンって清楚な感じするよね」
予想通りの返答におれの口元はにやりと持ち上がった。

「それから……、好色、官能的、肉欲、あなたは私のもの」
今度は指を一本一本折り曲げながら言葉をつなぐと
ソラの顔は面白いくらいにみるみる赤くなっていった。
「面白いよなー、真逆の意味の花言葉が付いてる事もあるんだぜ?」
堪えきれずにおれが笑うと、
ソラは居た堪れないといった風に渋いお茶を一気にあおった。
初々しいその姿に、助け舟を出してやる気になったおれは
可愛らしい花型のクッキーを持ち上げながらこう聞いた。
「な、ソラ、もしおれ等が花だったらどんなのだろうな?」
ソラはまだ少し赤い頬のまま、何度かパチパチと瞳を瞬かせ首をひねる。

「うーん……、テッドはとりあえずオレンジ色だよね。
 それで、花びらがシュッとした感じの星形に近い花な気がするなあ」
―この花にオレンジは無いが―桔梗みたいな花を想像されているんだろうか
自分で振っておいてなんだが、この話題はなかなか面白い。
「ソラはやっぱ赤か黒か? あ、でも白ってのも有りだよな。
 んで、形はあれ! 牡丹系のふわーっとしたやつ!」
「えー、僕、牡丹? そうかなぁ?」
「ん? それっぽいだろ? 華やかなところとかさ」
「僕って華やかなの? よくわからないなぁ……」
しっくりこないのかソラは首を傾げている、
その子供っぽい仕草に思わず笑みが零れた。

「それでさ、花言葉はやっぱ"誠実""一途""真面目"とか、そういうのだよなー!」
「ああ、それはちょっと分かるかな、僕一つの事にばっかり集中しちゃうし。
 君はなんだろう? やっぱり"陽気"とか"活発"とか"笑顔"とかかなぁ」
ソラのその言葉に少し面食らった。おれはそんな風に見えているのか、と。
正直嬉しかった、だが同時に胸の内には後暗い感情が湧いてきて、
それを誤魔化すようにおれは、さらに冷えて渋みを増した茉莉花茶を啜った。

「……もしさぁ、おれにもジャスミンみたいに正反対の、
 それこそ"孤独"とか"嘘"とか"不幸を振りまく"とか
 そういう花言葉が付いてたとしたら、お前どうする?」
自分自身でも馬鹿らしい事を言っているな、と思う。
口内に纏わりつく渋みにも似た今の気持ちとは裏腹に
無理やり明るく作った声は、我ながら気味が悪かった。

ソラは「んー……」と唸りながら考え込んでいるようだった
そして、少し後パッと顔を上げたあいつは笑ってこう言った。
「花言葉って、その花を見た人達が勝手に付けるものだよね?
 "陽気"でも"孤独"でも、その人にはそう見えたってだけで、
 結局確実なのは言葉じゃ無い、その花の形だけだよ」
丁度ソラの真後ろにある窓、そこから見える青空が、
―さっきまで見向きもしなかった癖に―やけに鮮やかに映った。
「例えどんな言葉で飾られていたとしても関係無い。
 きっと僕はオレンジ色で星形の君の花を好きになるよ」
少し恥ずかしそうに笑うその瞳は、青空によく似合うと思った。

「……そっか!」
ちょっと震えそうになった声を、なんとか明るく保っておれも笑った。
「……なあソラ、やっぱさっきの前言撤回!
 お前は青い花だな、きっとよく晴れた空の色だよ」
それだけ言ってカップに半分程残っていた美味しくない紅茶を飲み干す。
思わず眉を顰めてしまうくらいには渋いそれは、
勝手にニヤける口元を抑えるのには調度良い苦さだった。


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なぜか坊っちゃんには青のイメージがあります

***
なゆたさんから頂いたリクエストの
「ソラ坊っちゃんとテッドが昼下がりにお茶を飲んで談笑している話」
を目指して書いたSSです、リクを見た瞬間「何だこの設定!超かわいい!」となり
楽しみながら書かせていただきました!リク本当にありがとうございました!
ちゃんとリクに適っているか不安ですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです
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