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一個下の記事で書いた108星ENDの坊とグレミオについてのSSSです
が、出てくるのはほぼ坊ちゃんだけの独白です
今回は(自分の中では)健全設定として書いたんですが
人によっては坊グレに見えるような気もするので
ちょっとでも腐っぽいと無理って方は回避推奨です





僕のものだ

出て行くつもりだった。
誰にも告げずに、こっそり。

この黒髪は闇に紛れていると酷く見つけづらい
昔、誰かにそう言われたのを、今になって何故か思い出していた。


蝋燭一つ灯さないせいで、部屋の中は沼の底と見紛うほどに暗かった。
そこにただぼんやりと立っている僕は、他人から見れば
酷く滑稽に映るんじゃないか、となんとなく思う。
最低限必要な物だけを詰めこんだ革袋はとても軽く、
ただ、その最低限の物ですら本当は要らないんじゃないか
という考えが頭からはなれなかった。

自分はもう成すべきことは成したはずで、
ようやく空っぽになっていい、そのはずだった。
だがこの数年、やり切れないことが、本当に、本当に、多すぎた。
心さえ通り抜けて体中に染み込んでしまった蟠りや哀しみが
僕を捕まえて、空っぽになることを許してくれない。
こんな姿を晒すのは絶対に嫌だったが、
この苦しみをいつまでも隠し通すのだって
到底無理な事だと、自分自身が一番よく知っていた。

消えたかった。
いつの間にか風のように、誰にも気付かれずに居なくなってしまいたい
そして少しの間だけ僕を探して、少しの間だけ「残念だ」と思ってほしい。
少しの間そうした後は、綺麗さっぱりと諦めて、全部忘れてほしかった。
勝手な願いだとわかっているが、それでも、僕にとって皆にとって
これが一番幸福な方法なんだと、そう思えてならなかった。

むかしテッドが言っていた。
言葉を変えて、雰囲気を変えて、表現を変えて、
それが同じ意味を持つ言葉だとバレないようにしながら何度も。
『お前は、独りぼっちにはなるな』
事ある毎にそう言っていた、最近になってようやくそれに気づいた。
今まで一人になった事が無い僕にだって分かる
独りぼっちになるのは、絶対に寂しい。
テッドが何度も何度もそう言ってくれた理由はちゃんと分かってる
だけどもう誰かの力を借りていられる時期は過ぎてしまった。

僕は真っ暗な部屋の中で背伸びをしてそっとテッドの肖像を外した
音を出さない動きはここ数年でとても上手く出来るようになっていた。
この肖像画が出来たのはたった数日前だ、埃なんか被っているはずがない
笑顔の彼を閉じ込めるガラスも、枠も、新品そのもので汚れ一つ無い。
分かっていながら外し、分かっていながら座り込んだ。
柔らかい布でガラスを磨く、大して力を入れていないからガラスが鳴る音すらしやしない。
この部屋も、この家も、この街も、どこもかしこも静かだった。

最近、時間が余る度に、グレミオのことを考えていた。
グレミオは一度死んで生き返った人間だ
…………でもそれは本当に人間と呼べるんだろうか?
それが、ここの所一番よく考える事だった。
グレミオが此処に戻る直前、レックナート様は仰った。
『解放軍の戦士達よ、108星の者達よ。心静かにし友の事を思うのです。』
『ここにいる108星の心を繋ぎ、彼の者を、此処へ……』
と、そう仰った。

その言葉を思い出すたびに僕は思った。
あの時あの場に居た皆、その内一人でも違う事を考えていたとしたら
グレミオは戻って来られなかったんじゃないか、と。
もし誰かたった一人でも別の姿を思い浮かべさえすれば
グレミオは眠ったままでいられたんじゃないか、と。
そうだとしたら、それは僕の役目のはずだった。
グレミオを眠らせるのも、グレミオを起こすのも、選べるのは僕だけだ。

グレミオは昔、僕がとても小さな頃にこう言った。
『坊ちゃん。グレミオの命は、坊ちゃんのものですからね』
どういう流れでそんな事を言われたのかまでは憶えていないし、
そう言ったグレミオはいつもの通りおっとりした雰囲気のままだった。
だけどその時僕は、子供なりに本能のようなもので
その言葉の危うさを薄っすらと感じ取っていた。
軽々しく返事をしてはいけない重たい言葉だと、そう思ったから
こんなにもハッキリ記憶に焼き付いているんだと思う。

結局僕は『うん、知ってるよ』と答えた。
今でさえ馬鹿正直な僕だ、さらに単純だった昔の僕には
嘘をついたり言葉を選んだりなんて出来るはずもなかったのだ。
そう答えた僕にグレミオがどんな反応を返してみせたのかは憶えていない。


昔、誰だったか、多分知らない人にこう言われた事がある。
『グレミオ殿はソラ様のためなら
 その身を焼いて食べさせかねない勢いですな』
それはあまり聞き慣れない温度で放たれた言葉だった。
一応僕もその頃はもう人の言葉の中に隠された
悪意や嫌味というものに気づける歳ではあったから、
それが皮肉と邪気がたっぷり篭った言葉だという事もちゃんと分かった。
だがその時僕が真っ先に思ったことは、
"この人はなぜそんな当たり前のことを言うのだろう"
という、そんな疑問だった。

もしも僕が飢えて死にかけていたとしたら
グレミオはきっと、自分の腕か、はたまた脚かを、
何の迷いもなく切り落とし僕に食べさせる事だろう。
そしてそれはおそらく仕方がないことなんだと思う。
僕が、何かを食し続けなければいつか死んでしまうように
グレミオも多分、僕が生きて近くに居なければ死んでしまうのだ。
もしも僕が先に死んでしまったとしたら、
もしも僕が勝手に姿を消してしまったとしたら、
グレミオの心は少しずつ息をしなくなって、いつか死んでしまう。

だけど多分一つだけ方法がある
僕と離れていてもグレミオが死なずにすむ方法だ。
僕が命じればいい、たった一言『ここで僕を待っていろ』と。
その一言だけでグレミオは、死ぬまで一生僕を待つだろう
楽しいことも幸せなことも全部後回しにして
僕を待つ、ただそれだけの命令にひたすらに従い続けるのだ。

…………そんな命令をどうして口に出来るだろう。
"残りの人生全てを捨てて、戻りもしない主を待つ為だけに使え"
なんて、そんな事言えるわけがない。
グレミオは僕の従者だ。グレミオは僕の家族だ。
グレミオは僕の、もう一人のお母さんだ。
どんな時でも幸福であってほしいと願った、大事な、大事な、家族なんだ。
グレミオの命は今も昔も、ずっと、ずっと……!


キィ、とガラスが甲高く悲鳴を上げた。
考え事に没頭し過ぎたせいで力が過剰に入ってしまったようだった。
それだけの事なのに僕は、今のはテッドが『熱くなりすぎだ』と
僕を咎めたんじゃないか、と愚かで夢見がちな事をぼんやりと思った。
とりあえず、僕の馬鹿力のせいでヒビが入らなくて本当に良かった。

こうやって何度思案を繰り返しても答えは結局一つの所へ繋がった。
選択肢など初めから有って無いようなもので、
僕に選べる行動なんて一つだけだったのかもしれない。
ただそれが嫌で、無理やり遠回りしてみただけだったのだろう。

僕は、額縁を拭いていた布を行儀悪く床に置き捨て、
もう一度テッドの肖像画と向き合った。
薄い紙の中で明るく笑うその姿を見ていると
いつだって空っぽになりきれなかった胸はジクジクと熱くなった。
それが痛みなのかそれとも恋しさなのかはよく分からない。
額縁を元の場所へ戻す、持って行けないのが少し残念だった。
この先、もう一度この肖像画を見に来る事はあるのだろうか?
今の自分には到底分からないことだった。

僕の足を鉛のように重くする僕の心。
一秒の迷いが死に繋がっていたあの頃と違って、今は、
いつまでも答えを探すふりをして悩んでいられる気がしたが
タイムリミットは見えないだけで今でも続いていると知ってしまったから
もうこれ以上逃げられない。何より自分がそれを許さないだろう。
運命に身を任せるふりをして、僕はフラリと立ち上がった。

「グレミオ」
そのまま零した声は、嘘みたいに凪いでいた。
「返事はしなくていい、そのままそこで聞け」
ドアの向こうへほんの小さく届くくらいの音量で話しかける。
「僕は今夜ここを出る、お前も共に来い」
"これでもしもドアの先にグレミオが居たなら共に旅立つ事になる
 そうでなければ僕が一人で行くだけだ。もう天に全てを委ねてしまおう。"
そんな言い訳を一つ考えてみたが、心はちっとも軽くならなかった。
ドアの向こうでグレミオが待っている事くらい本当は分っているからだ。
僕とグレミオの人生や運命というものは癒着し過ぎている
離れることなんか多分最初から不可能だった。

グレミオの人生も、グレミオの体も、グレミオの魂も、
全部、全部、全部、僕のものだ。
だからグレミオの終わりだって僕が決める
ここで僕を待つように命じて少しずつ色褪せさせるくらいなら、
生と死の果てまで連れて行って、いつか僕がこの手で潰す。

僕のものだ。誰にも渡さない。



ふと己の右手の紋章のことを思い出した。
ああ、そうか、僕だって、これとさして変わりない。
――魂を喰らう異形なんだろう。


-----
坊ちゃんとグレミオの関係はちょっと螺子飛んでる位が正常な気がする
『外から見たら「うわ…何このヤンデレ主従…怖い…」って
 感じだけど、本人達はその執着を"絆"として暖かく思ってる』
みたいなイメージが108星END以降離れません
坊ちゃんはグレミオが再度ソウルイーターに喰われる前に
自分の手でグレミオを殺めるんじゃないかと何となく思っています
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